2004年5月号



 第13回 文:稲津恒巳
 さて、私は先月号で仕事仲間の店、2店舗を再建したことを記しましたが、読者の方からもう少し詳しく聞きたいという声を頂き、今回、もう少し語ってみたいと思います。

 ‘86年、JAC(有機農産物の流通組織;第5回参照)よりの依頼で三鷹市中原にあった仕事仲間の店舗を引き継ぐ事になったのです。前店主の作り上げた負債の額には少々驚かされましたが、引き受けた負債の額よりも、この店を再建して、JACを支援して行こうという思いの方が強く、早速スタッフの協力を得て再建の道に取りかかりました。

 この倉庫的店舗をお客様にとって入りやすく、ご利用頂きやすいように、現状の規模に会わせて品揃えを豊富にし、定時に開店して定時に閉店、という店舗としての最小限の役割を果たすことを第一の努めとしました。

 最初は女性スタッフ1名、男性スタッフ1名(現在本店の井田君)の2人による運営で女性が店舗担当、井田君が週3日〜4日、トラックによる前店主の引き売コースを引き継ぎました。

 井田君の大活躍によって引き売りコースがより定着し、多くのお客様方の支持を得ることが出来、初めの引き受け時に比べ、1年後には2倍3倍の売上を達成する迄になりました。それを可能にしたのは当人の丁寧な接客態度と豊富なマクロビオティックの知識、商品知識があればこそと私は理解しています(もちろん彼の個人的魅力は当然として)。

 同時に、店舗も商品の品揃えが豊かになり、また、新鮮な野菜が常時陳列されるようになって、売上も少額ながら確実に上向いてきたのです。

 しかし倉庫的店舗での販売はどんなに頑張っても先が見えているため、その年の秋に金融機関より最大限の融資を受け、店舗の大改装に踏み切りました。最初の店舗面積は庭先の空間4坪と室内4坪ぐらいのただずまいでしたが、全体のうち約20坪を店舗、残り5坪を倉庫・事務所として造り直し、グルッペ調布店として再出発したのです。

 店舗の改装にあたっては工務店に白壁と木造で設計してもらうように依頼しました。その意図は月並みな店造りよりも個性を表現して目立たせようと言う意図と、木目の柔らかさが商品を引き立たせてくれると考えたからでした。

 各スタッフの頑張りと、品揃え・商品の充実が相乗効果を発揮し、少しずつお客様のご来店数も増え、引き売りの充実と相まって年度を更新するごとに売上が増大し、店舗の再建を引き受けて4〜5年後には月額売上が900万円前後を達成し、スタッフも5名をかかえる程に成長したのでした。

 立地条件は、中央高速の高架のすぐ側で店舗の前が畑、店舗前を通り過ぎる通行人は1日100名を越すことはない、と言う過疎地にある店舗であっても、私たちの経営姿勢を明確にし、品揃えと商品の鮮度管理を確実に果たしていけば、お客様の支持と信頼は必ず得られるということを、この店舗での営業を通して学ばせていただきました。

 そして調布店が順調な経営軌道に乗りつつあった‘89年の春、練馬区江古田の自然食品店のオーナーが経営に行き詰まり、店の経営を引き受けてくれるよう突然の要請がありました。私にとって調布店を作り替えて経営もやっと安定化し、先々の見通しも立つようになった時だっただけに、そう簡単に経営を引き受けるという気分にはとてもなれず、最初は断わっていました。

 調布店の再建に多額の借金をし、もうこれ以上の借金はグルッペ本体の経営にとっても、私にとってもあまりにリスクが大きすぎて無理だというのが本音でした。その後、その店舗のオーナーは買掛債務をかかえる主要な取引先に、店舗の譲渡と引継を依頼したようですが、全て断られ、再び周り廻って私に要請が来たのです。

 現在負債がどれくらいあるのか聞いているうちに、JACへの未払い代金が何百万円もあるというではありませんか。他の問屋さんへの未払いを含めれば相当の額に達することは話を聞くまでもなく予測できましたが、私にはどうしてこんなに大きな負債をつくってしまったのか全く理解できませんでした。

 店舗の規模は25坪もあり、設備、什器は充分に揃い内装も充分に金をかけ、立地条件も道路幅は狭いとはいえ人通りのある商店街の一角であり、充分に経営して行けるだけの条件は揃っていたのですが、何故か私には分からない経営上の欠陥があったのでしょう。

 この店が倒産してJACの買掛代金が回収できなければ、JACは経営的に支障をきたすのではなかろうかとこのとき深く心配しました。このJACへの債務が無ければ、私はこの店の再建を引き受けることはなかったでしょうが、このとき運命の女神が私に悪戯をしたのでしょう。そのオーナーの熱心な要請とJAC経営上の心配があい加わって、私は自分の本音を乗り越えて店を引き継ぐことを約束してしまったのでした。

 当時の私たち夫婦は、店舗の拡張や改装で、すでに借金まみれなのに、さらに借金を背負うことには懸念がありました。が、その中でしっかりと店舗を造り替え再建させ、借金を完済することだけが唯一の光明でした。幸い調布店、江古田店共にスタッフの頑張りによって大きな過ちもなく、見事再建させ次の時代の展開に引き継ぐことが出来たのでした。

 経営に行き詰まった2人のオーナーの名誉のために一言述べますと、共に愛すべき好人物で、事業を展開するにはちょっと不向きな性格なのかなと思われますが、社会人としては立派な人柄であったことは確かです。

 ただ結論として、事業の運営を永続させるための鉄則はお金の支出と収入をしっかりと管理すること、この数字の管理が出来ない経営者は早晩経営に行き詰まることがはっきりしたのです。

(代表 稲津 恒己)

次号へ続く…