2004年4月号
![]() |
![]() 『 アフリカ・ポレポレ 親と子のセレンゲティ・ライフ』 岩合日出子 朝日新聞社 はてしない平原。東アフリカ、タンザニアの国立公園「セレンゲティ」。 一九八二年、八月。動物写真家、岩合光昭夫妻と四歳になる一人娘の薫ちゃんは、一年半という期間を決めて彼の地へ旅立った。 この本は、妻の日出子さんが綴った、一家のタンザニア滞在記である。そこには、寝ても覚めても、シャッターチャンスを逃すまいと駆けずり回る、撮影の鬼と化した夫。子供特有の順応性をフルに発揮して、素敵な発見や感受性豊かに言葉を綴る我が子。 その二人に豊かな生命力をもたらすべく、未開の地で日々の生活に奮闘し支えながらも、時に現実に不安を覚えずにはいられない妻として母としての憂い。 そして一家を取り巻く、土地の人、自然とが微妙なバランスを保ちつつ絡み合う様子があふれている。”ポレポレ(ゆっくり)精神”をいやおうなく受け入れ、自然の時間に身をまかせる。 必要以上の物を望まない。道具はとことん使いつぶす。まさにスローライフである。 とはいえ、さすがに生活用水の確保に翻弄され、摂氏三十六度の居間で暑さに耐えなければならない日常。ダニ、肉食アリの攻撃や、食料を狙う猿達との闘いには、心身共に疲労困憊の一語に尽きるのだろう。 そしてそんな著者を癒すのも、「はてしない平原」である。 我が家の東窓向こうには風にゆれる地平線。ガゼルやインパラが草を食む風景。南窓にはキリンの優雅な食事風景が目近に見てとれる。 何日もかけ、やっと見ることができたヌーの出産や、風林火山のごとく移動する千頭のヌーの大群。一瞬のスキもないライオンのハンティング。そこには生と死のドラマが繰り広げられている命の平原が広がっている。 ポレポレ精神で得たものは、何物にも変え難いのではないかと思う。だって、薫ちゃんの笑顔があんなに素敵なんだもん。 (レストラン 粟国) |